『ベニスカシジャノメ』というペルーの蝶です。
普通は、蝶の翅は、鱗粉というものでおおわれています。
蝶を捕まえると、手に粉っぽいものがつきますが、あれです。
ただ、この蝶の場合、眼状紋という左右の眼玉模様付近と紅色の部分だけに鱗粉があり、他はまるでセロハンのような半透明なもので翅室が覆われています。
今年の夏は暑いので、透け感のあるものに惹かれます。
カワトンボともお似合いなので、さっそく描き進めていきます。
2018.8.7
まずは、デッサンしたものを、水彩用紙にトレースします。
トンボに比べると、翅脈の数が格段に少ないので、肉眼で見える範囲はすべて描きました。
ただ、体については、実物をラボにてしっかり観察しておらず、写真だとフォルムはわかるけど、質感がわからないので、なんとなく輪郭をとるにとどめています。
構造上、翅を描いてから、体を描くことができそうなので
体は、再度、ラボにて観察した後、描き足すことにします。
2018.8.10
次に透かし部分のベースの色を塗る時の、平塗りの工程を少し詳しく説明します。
まずは、水を塗ります。
『水を塗る』って、ちょっとおもしろいですが・・・、これは、ボタニカルアートを習った時に教わった方法で、水の力を借りて、絵の具の粒子を均等に広げる作用を使う技法です。
乾いた紙に、そのまま筆で絵の具を広げようとすると、水分量を間違えると、筆目が出てしまったり、手早く塗り広げようとするあまり、輪郭をはみ出してしまうことがありますが、この方法だと初心者でも落ちついてきれいに平塗りができます。
水分量は写真くらい。
流れ出るほどではないけれど、すぐ乾く量ではありません。
私の場合は、最初に水滴をポトンポトンと何粒が枠内に置いておいて、
その水でまず枠(水の土手)を取り、枠内に筆で水を広げていきます。
枠内で広げるには、ある程度の水が必要です。
あまり多すぎると、筆の勢いで枠を超えて水が広がってしまいます。
絵の具の粒子は、水が塗ってある範囲通りに流れ込みますから
『輪郭を超えないように水をまんべんなく広げる』ことが大切です。
多すぎたら、筆をスポイド代わりに、水を吸い上げます。
水を広げた後は、ベースになる色を筆で置けば、水の広がっている範囲におのずと絵の具の粒子は流れていきますので、筆は補助的に隅々まで絵の具を流し込む感じで広げます。
きっちりと、輪郭通り水を塗っておけば、輪郭から絵の具がはみ出ることもありませんし、乾かないうちは、色の濃さの調整も可能です。紙に水がしみ込んでいるので、かすれた感じなることは無いですし、筆目も出ません。
そのかわり、乾き始めたら絶対に筆でいじってはいけません。
水彩紙を水張りする作業や、この平塗りの作業は
細かい絵を描く前の儀式的な感じで
作業そのものがなんとなく好きで、気持ちが落ち着きます。
2018.8.14
鉛筆描きの翅脈の通り、筆で描きます。
ただし、細い翅脈にも、強弱はあるので
濃い方を始点に淡い方に向かって筆を動かします。
前翅(上側)の輪郭は濃く、ぼかしも入れます。
2018.8.18
後翅のコーラルピンクや左右の眼状紋など特徴をどんどん描きこみます。
翅室内の細かい模様なども描きこみます。
こちらは、とてもやわらかい色合いなので
下絵の段階では描いていません。
蝶同士は、この模様を見て、仲間であるか判別するらしいので、
模様はとても大切なようです。
模様こそが、私が私である証と思って
丁寧に描いていきます。
2018.8.22
最後に、体を描き加え
全体の陰影を調整し、完成です。
2018.8.26
ベニスカシジャノメを発見しました!
といっても・・・、もちろん、東京の空で見たわけではありません。
スイスの絵本画家クライドルフの作品の中に、ベニスカシジャノメが飛んでいたのでした!
彼の作品にはたくさんの昆虫が擬人化された形で出てきます。
1926年に発表された『Lenzgesind/花を棲みかに』という絵本の中で、南の国から訪れてきた渡りの蝶の群れがが描かれているのですが、その中の一番右の蝶です。
ベニスカシジャノメは中南米に生息する蝶で、スイスとは10000km以上離れているので、渡ってくるのは難しいと思われますが、色合い、左右の目玉模様から、どう見てもベニスカシジャノメに見えます。
クライドルフの作品には、写実的なものと空想的なものが入り混じっているので、これがイメージとしての描写なのか、本当にアルプスに関係する蝶なのかは、本当のところは知り得ませんが、わたしが描いた蝶を100年前のクライドルフも何かに惹かれて見つめていたとしたら・・・・・、時空を超えてシンクロするようで、なんだか不思議な高揚感があるのでした。
2018.8.30